総評
「お金を使うことは、人間関係の省略」あとがきにある言葉なんですが、これがこの本全体の訴えたいことを表しているように感じました。本著書はそんなさみしい資本主義に対してのアンチテーゼとなる提案をいくつか出されています。
良好な人間関係を望むのは当然ですが同時に不利益な関係を拒む気持ちもあり、現代社会は後者が勝ちすぎているとと改めて感じました。 人は繋がりを求める生き物なのに繋がりを省略するツールであるお金を強く求めてる。すべては過剰なほどに人がつながってしまう社会になったせいなんでしょうね。
1.様々なものから貰う
価値あるものを人から人へ渡していく。贈与経済とも呼ばれるこの関係性は特に目新しいものではなく、古くからおこなわれてきたこと。日本でも慶弔の香典などで形としても残っており、山間部では今でも当たり前のように収穫された野菜の相互贈与が行われていますね。そこではお金のやり取りはありませんが、その代わりにお互いを尊重した人間関係が生まれています。
本来、人間社会ではそういった良質な人間関係が当たり前のようにあったはずなのに、資本主義により与えられるものが金額で測定できるものになってしまい、数字を元にした簡素な取引が主流となってしまっているというのが著書の主旨と感じました。ただ、人間関係にはいじめ・暴力・村八分などの負の要素があるという点にも触れられています。それらを避けるためわかりやすい資本主義に傾倒しているというのは理解できますが、それはそれでさみしい世界だし近視眼的な大量消費という弊害も生まれているという事を嘆いておられました。私も完全に同感です。
貰うものとして行政からについては気になったところ。日本人はなぜか行政からの助成・補助を恥ずかしく思うところがあるように思います。制度として作られたものをルール通りに使う事に何を躊躇うことがあるんでしょうか。
むしろ、変な偏見の目があるせいで本当に利用したい人が利用できておらず、本来の利用状況に進むことができていないせいで行政側も正しい利用ルールを模索しきれていないのではないかと危惧しています。
2.共有する
シェアリング・共有経済は今では皆が知っており、新しい経済圏として注目も集まっているので多く語る必要は無いですね。AirBnBやカウチサーフィンなどの宿泊場所の共有、Uberなどのライドシェア、世の中に供給されるリソースが過剰になっているのと、個人に割り当てられる富の配分が小さくなっていることを考えると当然の時流なのかなと感じました
3.更なる選択肢
労働・経営以外にも隙間産業的ではありますが収益を得る方法はあるという紹介。実際、日本で生きてくうえでは必要以上にストレス溜めるよりは必要最低限の収入と労働の方が健全な生き方じゃないかなと思います。
また、使えるものを「拾う」ことを推奨されていた事も共感です。ヨーロッパでは大量廃棄を防止する法案などが成立し始めているとか(フランスの食品廃棄禁止法など)。日本は過剰な品質管理の関係で特にゴミの多い国。しかも世間体の関係で一旦ゴミと判断されたものを再活用する事に対して抵抗感ある人が多い国。「もったいない」を今一度思い出していきたいですね
この著書ではありませんが、江戸時代はその日暮らし、最低限の労働というのが主流であったという話もあり明治時代の文明開化による資本主義導入でこのような社会性に変わってしまっており、決して働き者の集団ではなかった日本人が統一行動を強いられる集団に変わってしまったという話もありました。
それぞれが自分の求める生き方をする・・というのは現代の時流かなと思うので、少しずつ国民個人個人が望む形に戻りつつあるのかもしれません。
まとめ
資本主義は大変優れた思想・社会であるためこれだけ発展し世界に広がったのは間違いありません。
ただ、広がりすぎた弊害が発生し始めており、過剰になった先進国で少しずつ見直す動きが出てきているという流れを意識する必要がある・・・というメッセージを感じました。
マズローの欲求段階では「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現」とありますが、現代社会では既に最初の3つは大した努力もなく達成できるようになっています。更なる高みとして目指している「承認欲求」と「自己実現」するための努力と、下位の欲求の充足とのバランスをとることが難しくなっており本当なら十分満足できる状況のはずなのに上位欲求を深く考えすぎて悩みを多く抱えているのが現代人じゃないでしょうか。
上位の欲求は金銭での獲得が難しいものが多くあるため、今一度お金との付き合い方を見直していきましょう
<個人的に気になった用語集>
・私有の誕生・・・農耕社会の発展により個人別に割り当てがされたことから始まった(らしい)
・スカベンジャー・・・拾屋。ゴミ拾いで生きてる人たち。世の中の無駄をうまく使ってくれてる人たち
・保護法益が低い=ゴミは資産価値が低い為、基本的に起訴されない
・物々交換・・・お金が無かった時代の基本的な取引は物々交換だった・・という話ですが、どうも信憑性は低いそうです。お互いが必要とするものをタイミング良く持っていることは稀なのは想像できる話。実際は贈与経済・ツケ払いの感覚で一旦贈与した後に貰った方が返礼する・・という形だったのではないかという話でした。確かにその方が納得感は高いですね